絵巻物

絵巻物

日本絵画といえば、屏風絵、襖絵、掛け軸、絵巻物、などがあります。その中でも、巻物を広げるにつれ絵と文が展開していく絵巻物が、私は大好きです。有名な絵巻物は日本の四大絵巻物と称される『源氏物語絵巻』・『信貴山縁起』・『伴大納言絵巻』・『鳥獣人物戯画』など、挙げればきりが無いですが、ここでは特に私がお気に入りの絵巻物についてお話したいと思います。

おとぎ話と絵巻物

文字だけではなかなか読みにくい物語も、絵があるとずいぶん分かりやすく、また魅力的になります。漫画の面白さは、そうしたことをよくあらわしていますよね。今では漫画ですが、昔の人は絵巻というもので物語を興味深く鑑賞していました。絵巻は、漫画と少し違って、最初に文字(詞(ことば))で物語を書き、そのあとにその内容を絵に表わしたものをついで巻物に仕立てています。絵巻に取り上げられる物語は、源氏物語のような平安時代の代表的な小説から、お寺や神社の縁起、お坊さんの伝記などさまざまですが、室町時代には子供たちにも分かるおとぎ話の絵巻も作られるようになりました。

絵巻物の魅力

絵巻物の魅力はたくさなりますが、一番はくるくると広げていくと広がる世界観や、そして物語も広げるように展開していくという斬新さではないでしょうか。そもそも絵巻物は日本の絵画形式の1つで、横長の紙(または絹)を水平方向につないで長大な画面を作り、情景や物語などを連続して表現したものです。絵巻物は平安時代末頃から見られ、鎌倉時代に最も多く作られました。室町時代以降は、その製作は少なくなったものの、貴重な資料である絵巻もたくさん残っています。江戸時代には『寛永行幸記』『御馬印』のような、活字や色刷りの絵巻物も登場しました。

代表的な絵巻物

西洋には無い、日本の美しさである物語絵巻物。代表的な絵巻物には、『源氏物語絵巻』『信貴山縁起絵巻』 『伴大納言絵巻』『鳥獣人物戯画』などがあります。また、『枕草子』『伊勢物語』『源氏物語』『宇治拾遺物語』なども有名な絵巻物です。絵巻物は色彩のあでやかさ、色の優雅さ等、独特の表現で描写しています。特に『源氏物語絵巻』は、濃厚な色彩で貴族の生活を描き、家屋は屋根を省略した吹抜屋台で描かれていて、当時の住居の状況や建具の使用状況などが一望できる魅力あふれる絵巻物です。

絵巻物の特徴

絵巻物の物語は必然的に時間の経過が取り込まれていて、巻き取りながら鑑賞することで時間の推移を表すことができるという特徴をもっています。平安時代には特に多くの絵巻物が制作されました。絵巻物においては画面が右から左へと展開していきますが、これは日本語表記の流れに沿った結果であると思われます。ことば書きがあるのもありますが、主に、絵によって世界を表現します。巻物を広げるにつれ絵と文が展開していく絵巻物は、平安時代末頃から見られ、鎌倉時代に最も多く作られました。

絵巻物の構図

絵巻物の画面には斜め上方から見下ろしたような構図のものが多くあります。これは、日本絵画作品の場合は、壁画、襖絵、掛軸、屏風などのように垂直に立てた状態で鑑賞するものが多いのですが、絵巻物は、机の上などに水平に置いて右手で巻きながら見下ろす形で鑑賞するという特徴によるものです。この点に加え、天地の幅が狭いという画面形式の制約もあるからと思われます。

絵巻物の画法

絵巻物では、『伴大納言絵巻』の「子どもの喧嘩」の場面、『信貴山縁起絵巻』の東大寺大仏殿の場面などが有名です。こうした「多重視点、平面性、異時同図」なども絵巻物の特徴です。絵巻物では、西欧の一枚絵とちがって、物語世界が横へ流れていきます。それゆえ、今見ているこの場面は、次の展開の準備にもなります。つまり「絵」そのものや構図が、「奥行き」より「展開」に、重点がおかれます。したがって「絵」は平面的になります。

『異時同図法』
絵巻のこうした特徴の有名な表現法としては、「異時同図法」といわれるものがあります。これは、同一画面内に同一人物が複数回登場して、その間の時間的推移が、一場面の絵に描かれます。『異時同図法』は、同一画面内に同一人物が複数回登場して、その間の時間的推移が示されている絵巻物の特徴的な画法。『伴大納言絵巻』の「子どもの喧嘩」の場面と、『信貴山縁起絵巻』の東大寺大仏殿の場面がその代表例として知られています。後者を例にとると、登場人物の尼公(あまぎみ)が1つの画面に計6回描かれています。これは尼公が大仏殿に到着し、礼拝し、夜通し参篭し、明け方出発するという一連の時間的経過を1枚の絵で表現したものです。
『吹抜屋台』
絵巻物の中には建物内部にいる人物が見えるように、建物の屋根と天井を省略して全く描かないという表現法で室内の情景を描いたものがありました。あたかも、建物の屋根と天井を取り払ってしまったようなこうした描写方法は『源氏物語絵巻』などに典型的に見られ、「吹抜屋台(ふきぬきやたい)」といいます。なお、「吹抜屋台」は絵巻物に限らず、画帖などにも見られる描法です。
『俯瞰構図』
『俯瞰構図』とは、斜め上方から見下ろしたような構図が多く、あたかも建物の屋根と天井を取り払ってしまい、覗き込むような構図の表現法のことです。俯瞰構図の特徴はリアルなものの見方にあります。近づいてみると、とりわけ人物などは、リアルな表情をしています。つまり遠くから見た視点と、接近してその人物の表情や心情を表現する視点との、多重な視点が同時に、同じ絵に描かれています。

絵巻物の歴史

中国から伝わった巻子は、日本で絵巻物として見事な発達を遂げました。最初の絵巻物は、奈良時代に制作された『絵因果経』であると言われています。絵巻物は昔は「絵物語」や「物語絵」と呼ばれていました。ここで使われている「物語」という語句は「文学」を指していると解釈できます。言うなれば絵巻物は「絵画」と「文学」のコラボレーションが生み出した総合芸術なのです。両者は絵巻物において、「物語(ストーリー)」を表現するための構成要素として互いを補い合う不可分の関係にあります。これは巻物の下段に経文、上段にそれを絵解きする絵画を配したものです。鎌倉時代には、『歌仙絵巻』、『戦記絵巻』、そして『寺社縁起』や高僧の『伝記絵巻』などが多く制作されました。

平安時代の絵巻物

平安時代になると、王朝文学の物語、説話などを題材とした絵巻が制作されるようになりました。その理由として、平安時代の「ひらがな」の発明が挙げられます。その結果、「源氏物語」などの日本人の心情を自由に書き表した多くの文学作品が生み出されることになり、絵巻物として表現する主題としての「物語」が充実するのです。これらは、金銀箔や野毛、砂子を撒き、花鳥などの下絵をあしらった料紙に連綿体で書かれた詞書と、それに対する絵を交互に配する独特の様式を生み出しました。

絵巻の形

絵巻物は、紙や絹を横方向につないだ、長大な紙面に描かれたものです。紙でなく絹に描かれた作品としては『一遍上人絵伝』『春日権現験記絵巻』などが有名です。ひと続きの絵、ひと続きの詞を数える単位を「段」といい、絵巻物の説明にたとえば「絵4段、詞4段」とあれば、その絵巻物は絵と詞とが交互に4回ずつ現れるものであることが分かります。1巻の中に「絵」と「詞」とが交互に現れる形式がもっとも多く、通常は「詞」が先に来て、その直後にその「詞」に対応する「絵」が来ます。まれに例外もありますが・・・。なお、『鳥獣人物戯画』のように絵のみで詞のない絵巻もあり、『華厳宗祖師絵伝』のように、「詞」とは別に、画中人物のかたわらに「せりふ」を書き込んだものもあり、絵巻は本当に奥が深い魅力的な作品です。

絵巻の大きさ

絵巻の大きさは天地が30cm前後のものがもっとも多いのですが、『北野天神縁起』(承久本)のように、天地が50cmを超える大作もあります。また、室町時代のお伽草紙のように、天地15cmほどの小品もあり、これらは小絵(こえ)と呼ばれています。左右の長さ、すなわち巻物全体の長さについてはまちまちで、全長10メートル前後のものが多くありますが、『粉河寺縁起絵巻』のように1巻で20メートル近い長さのものもあります。巻数については、1つの作品でもっとも巻数が多い絵巻は京都・知恩院と奈良・当麻寺奥院の『法然上人絵伝』で、いずれも全48巻の大作です。ちなみに「48」という数字は阿弥陀如来の「四十八願」にちなんだものです。1巻のみで完結している作品と、数巻からなる絵巻とがあります。

オススメの絵巻集

私がオススメする、『新修日本絵巻物全集 全30巻 別巻2(32冊) 』をご紹介します。見ごたえたっぷりで、絵巻初心者の方にも楽しんでいただけると思います。

全30巻別巻2(32冊)の構成

  • 編集担当:亀田孜・島田修二郎ほか
  • 1 絵因果経
  • 2 源氏物語絵巻
  • 3 信貴山縁起
  • 4 鳥獣戯画
  • 5 伴大納言絵詞
  • 6 粉河寺縁起絵・吉備大臣入唐絵
  • 7 地獄草紙・餓鬼草紙・病草紙
  • 8 華厳縁起
  • 9 北野天神縁起
  • 10 平治物語絵巻・蒙古襲来絵詞
  • 11 一遍聖絵
  • 12 西行物語絵巻・当麻曼荼羅縁起
  • 13 紫式部日記絵巻・枕草子絵巻
  • 14 法然上人絵伝
  • 15 玄奘三蔵絵 (法相宗秘事絵詞)
  • 16 春日権現験記絵
  • 17 寝覚物語絵巻・駒競行幸絵巻・小野雪見御幸絵巻・伊勢物語絵巻・なよ竹物語絵巻・葉月物語絵巻・豊明絵草子
  • 18 男衾三郎絵巻・長谷雄雙紙・絵師草紙・十二類合戦絵巻・福富草紙・道成寺縁起絵巻
  • 19 三十六歌仙絵
  • 20 善信聖人絵・慕帰絵
  • 21 東征伝絵巻
  • 22 石山寺縁起絵
  • 23 遊行上人縁起絵
  • 24 年中行事絵巻
  • 25 華厳五十五所絵巻・法華経絵巻・観音経絵巻・十二因縁絵巻
  • 26 天子摂関御影・公家列影図・中殿御会図・随身庭騎絵巻
  • 27 天狗草紙・是害房絵
  • 28 伊勢新名所絵歌合・東北院職人歌合絵巻・鶴岡放生会職人歌合絵巻・三十二番職人歌合絵巻
  • 29 地蔵菩薩霊験記絵・矢田地蔵縁起絵・星光寺縁起絵
  • 30 直幹申文絵詞・能恵法師絵詞・因幡堂縁起・?焼阿彌陀縁起・不動利益縁起・譽田宗縁起
  • 別巻1 弘法大師伝絵巻・融通念仏縁起絵・槻峯寺建立修行縁起
  • 別巻2 天神縁起絵巻・八幡縁起・天稚彦草紙・鼠草紙・化物草子・うたたね草紙